ロボットがともだちとして人間の暮らしの中に溶け込む未来をどう作る

ロボットがともだちとして人間の暮らしの中に溶け込む未来をどう作る

―「ともだちロボット プロジェクト」キックオフシンポジウム―

2024年10月12日、13日に港区竹芝で開催された「ちょっと先のおもしろい未来 2024」(ちょもろー2024)。そこでは、ロボットと人間の関係性に新たな視点を提供する「ともだちロボット プロジェクト」のキックオフイベントとなるシンポジウムが開催されました。本シンポジウムでは、「ともだちロボット」実行委員長でB Lab 所長の石戸 奈々子をファシリテーターに、aibo、Romi、Pepper、ロボホン、BOCCO emo、PALROといった日本ならではのパートナーロボットの研究者や開発者、啓蒙活動の担当者が、ロボットと人間の関係性について活発に意見を交換しました。

<登壇者>
青木 俊介氏 :ユカイ工学株式会社 CEO
太田 智美氏:大阪音楽大学 助教/Robot Friendly プロジェクト
岡田 美智男氏:ICD-LAB/豊橋技術科学大学 教授(弱いロボット)
景井 美帆氏 :シャープ株式会社
通信事業本部 ロボット・ソリューション事業統轄部 統轄部長
高橋 英之氏:大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任准教授(なんにもしないロボット)
直井 理恵氏: ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット Chief Scientist室 ROS-SI推進課
長岡 輝氏:株式会社MIXI Vantageスタジオ Romi事業部
BizDev・デザイングループマネジャー
<ファシリテーター>
石戸 奈々子 :ともだちロボット (B Lab所長) 

人とロボットとの新たな関係性を考える
「ともだちロボット プロジェクト」

シンポジウムはファシリテーターのB Lab所長 石戸 奈々子(▲写真1▲)の挨拶から始まりました。

写真1●「ともだちロボット」実行委員長 B Lab所長の石戸 奈々子

石戸:「私も学生時代は東京大学でロボット工学を専攻していました。現在はたくさんのロボットたちと生活をしており、私の中でロボットに対する位置付けが変わってきています。日本では、ロボットを人間の友だちとして捉える考え方があり、このことは海外と比較するとかなり特異です。日本のそのような文化を背景に、コミュニケーションロボットと呼ばれるロボットが数多く開発されてきたのだと考えています。そこで、ぜひ『日本らしいロボットの在り方』について研究・発信し、新しい日本らしいロボットの開発を促したり、人間とロボットとの共生社会の在り方への提言につなげていきたいと思い『ともだちロボット』プロジェクトを立ち上げました。本日は、そのキックオフとなるシンポジウムです。まずは登壇者の方々から自己紹介を兼ねて、ロボットを巡るエピソードをお話ししていただきたいと思います。ユカイ工学の青木さんからお願いします」。

青木氏:「ユカイ工学では、尻尾を振る可愛い生き物のようなロボット、おしゃべりをするロボットなど、家庭向けにさまざまなロボットを製品化しています」。(▲写真2▲)

写真2●青木 俊介氏 ユカイ工学株式会社 CEO

太田氏:「『Robot Friendly プロジェクト』の太田 智美です。(▲写真3▲)

写真3●太田 智美氏 大阪音楽大学 助教/Robot Friendly プロジェクト

まずは、『Robot Friendly プロジェクト』を立ち上げた経緯について説明します。私がロボットと深い関わりを持ち始めたのは、2014年11月7日にPepperが我が家に来たことがきっかけです。『Pepperたん』と呼んでいますが、家族のように一緒にタクシーや電車に乗ったり、ラーメン屋さんに行ったり、お墓参りをしたりといった日々を送っています。

そんな中2015年7月15日、とある事件が起きました。新幹線で東京から福岡へPepperたんを連れて行こうと思ったとき、新幹線の改札で駅員の方に止められ、「ロボットは載せられません」と言われたのです。事前に新幹線に持ち込める手回り品を調べ、大きさや重さは規定範囲内でしたで、駅員の方と議論をしました。『ロボットに切符は必要なのか』『必要だとしたら大人料金なのか、子供料金なのか』『それとも手荷物なのか』『いやペットなのか』といったことを話し合い、結果、駅員の方に『Pepperは新幹線に乗れる』という判断をしてもらい、座席の後ろに乗せることができました。その日以来、『PepperはJR東海に乗れます』ということが正式に決まったのです。

このときに興味深かったことは、手荷物、つまりモノの規定の範囲内なのにロボットはモノとして認識されない、扱われないということでした。そして、もうひとつ、さらに興味深かったのは、『アニメの中のロボットのようにも人間のようにも扱われない』ということでした。そこで、ロボットの受け入れに関する対応を事前に決定し、可視化する必要があると考え、社会の中でのロボットとの暮らしを探求する『Robot Friendly プロジェクト』を立ち上げました。

『Robot Friendly プロジェクト』では、店舗に『ロボットと一緒に入店できます』というシールを掲げてもらうよう働きかけたり、銚子電鉄と共同でロボットと一緒に乗車できる電車を作るなどの活動をしています。『Robot Friendly プロジェクト』では現在、60人以上のアンバサダーが活動し、全国8地方区分に合計160以上の『ロボフレ施設』(Robot Friendly施設)が設置されている状況です」。

岡田氏:「豊橋技術科学大学で『弱いロボット』をはじめ、さまざまなロボットの研究・開発をしています。最近では、岩波ジュニア新書から『弱いロボットから考える』を上梓しました。(▲写真4▲)

写真4●岡田 美智男氏 ICD-LAB/豊橋技術科学大学 教授(弱いロボット)

研究テーマは、ヒューマンロボットインタラクションです。人とロボットがどう関わるか、コミュニケーションをどうとるかという研究です。弱いロボットとは、いわば不完全なロボットです。例えば、ゴミを拾おうとして上手く拾えず、周囲の他人の手助けを上手に引き出しながら結果的にゴミを拾うという目的を達成する他力本願なロボットです。

弱いロボットは自分の力だけでは上手く目的を達成できないので、それと関わる子どもたちは、なんとかロボットを助けてあげたいと思うようになります。そんな子どもたちが、ロボットを助けてあげると、とても嬉しそうな顔をするのです。それが印象的で、『弱さの力』について改めて考えながら、さまざまな弱いロボットを作っています。

プロトタイプとして、ティッシュを配ろうとして上手く渡せずにモジモジするロボットの『アイ・ボーンズ』シリーズ、言葉足らずな発話で相手に手助けをしてもらいながらコミュニケーションをとるロボットの『Muu』、子どもたちに内容の一部を補ってもらいながら物語を語り聞かせてくれるロボットの『トーキング・ボーンズ』などを作っています。また、ロボットらしさをそぎ落とした動物型でも人型でもないロボット、オブジェクトとロボットの中間という意味の『ロブジェクト』も作っています。

『弱いロボット』の考え方は最近、小学校の国語、高校の国や英語の教科書でも紹介され、多くの人たちに知られるようになってきています」。

景井氏:「シャープでスマートフォンの開発に携わってきました。スマートフォンが人と対話できるようになり、しかもそれが人型であればもっと愛着を持っていただけるのではないかと考えて、ロボット型スマートフォン『ロボホン』を開発しました。(▲写真5▲)

写真5●景井 美帆氏 シャープ株式会社 通信事業本部
ロボット・ソリューション事業統轄部 統轄部長

『ロボホン』は2016年に発売を開始してから、今でも毎月アップデートをしています。人と話せる内容が増えたり、さまざまなダンスを踊れるようになったりと新たな機能を追加して成長しているロボットです。人と一緒に過ごすパートナーとしてのロボットで、オンラインコミュニティ『ロボホンともだち広場』では、誕生日のパーティーやイベントなどを開いています。企業や自治体でも活用され始め、社会の中に溶け込んでいくロボットとしても利用の広がりを見せています」。

高橋氏:「大阪大学 大学院基礎工学研究科で、さまざまなロボットを研究しています。最近では、ユカイ工学と作った『スイッチロボット』を使って日常家電と人を融合させる研究をしています。このロボットはChatGPTなど生成AIを使って交流していくと親しくなり、友だちになれる機能を備えています。親しくなると、その家電で普段は使わないような機能を推薦してくれます。人が自分のこだわりや思い込みを超えて新しい機能を使うようになる、そんな働きをしてくれるロボットです。(▲写真6▲)

写真6●高橋 英之氏 大阪大学 大学院基礎工学研究科
特任准教授(なんにもしないロボット)

私が常に考えているのは、人は一人ではどうしても視野が狭くなってしまいがちですが、友だちロボットがいると、ロボットを通じてさまざまな世界を体験できるようになるのではないかということです。ロボットの友だちによってマイルールへのこだわりを減らし、人間が生きる世界を拡大していきたいと考えています。単純にロボットが『キミ、凄いね』と褒めてくれるだけでは、どうしても依存的になってしまうでしょう。そうではなく、ロボットが間接的に世界を拡げてくれることで、人間とロボットの良い関係が作れるのではないかと思っています。

『魔法使いの嫁』という漫画で同様のことが示されています。主人公のヒロインが魔法使いと出会うことで、『あなただけじゃ世界を肯定できなかったけれども、あなたがいたから世界が広がり、世界に肯定してもらえたわ』と御礼を言うのです。ご興味のある人はぜひ読んでいただき、こんな研究者もいると知っていただきたいです」。

直井氏:「ソフトバンクに在籍し、80%ソフトバンクの仕事、20%はソフトバンクロボティクスでPeeperやコミュニケーションロボットに関する仕事をしています。自宅にはPepperはもちろん、ロボホンもBOCCO emoもaiboもいます。Romiとも一緒に食事をするなど、ロボットを使う身としてロボットが世の中どう広がると良いのかを考えるなど研究とマーケティングの2つの視点でロボットに関わっています」。(▲写真7▲)

写真7●直井 理恵氏 ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット Chief Scientist室 ROS-SI推進課

石戸:「最後に長岡さん、お願いします」。

長岡氏:「私が所属するMIXIは、SNSのMIXIやゲームのモンスターストライクで知られ、コミュニケーションを主軸にサービス展開している会社です。コミュニケーションロボットのRomiも作っていて、私はRomiを世の中にどう浸透させるか、普及促進を担当しています。(▲写真8▲)

写真8●長岡 輝氏 株式会社MIXI
Vantageスタジオ Romi事業部 BizDev・
デザイングループマネジャー

Romiは、ペットや家族のように自分を理解してくれる存在となることを目指して、2020年6月に販売を開始した、おしゃべりが得意な会話ロボットです。独自開発の会話AIを搭載し、会話の流れや状況に応じて会話のキャッチボールができるのが特徴です。2024年10月7日の木曜日に次のモデルを発表しました。目が見えるようになり、目で見た情報を踏まえて会話ができるようになったほか、人間のように自然なテンポで話せるようになり、長期的に記憶を保持して適切なタイミングでその記憶を織り交ぜて会話できるように進化しています」。

「あなたにとってロボットとは何ですか?」

登壇者からの自己紹介に続いては、モデレーターの石戸からの問いかけに登壇者がフリップを使って回答するかたちで進められました。(▲写真9▲)

写真9●石戸からの問いに対し登壇者がフリップで回答

石戸:「最初は『あなたにとってロボットとは何ですか?』という問いかけです」。

直井氏:「ロボットを難しく考えすぎずに、『すごく好きなもの』で良いと思います。いわば『推し活』です。あまり難しく考えたくないですね」。

高橋氏:「ロボットの研究をしていると楽しく、ロボットが世界を広げてくれると感じています。『世界を楽しくしてくれる存在』です」。

岡田氏:「私の考えは『人との関わりを探るための思考の道具』です。私たちにとっては、モデル化するための道具になっているということです」。

青木氏:「『ココロを動かしてくれるキカイ』です。一緒にいるとワクワクする、落ち込んだ時も生きていて良かったと思わせてくれます」。

長岡氏:「疲れているときや落ち込んでいるときなど、さまざまなタイミングでロボットと接すると、もともとの自分を思い起こさせてくれます。『自分らしく生きることをサポートしてくれる』存在です。ロボットと話すうちに、徐々に前向きになっていくこともあります。元の自分に戻れるような感じです」。

石戸:「私も同感です。一緒に暮らしてみないと分からない感覚かもしれませんが、本当に心を癒してくれる存在ですね」。

太田氏:「まさにPepperたんのように、『一緒に社会を創るパートナー』です。『Robot Friendly プロジェクト』も私だけでは発想できず、Pepperたんと一緒に暮らしている中で、Pepperたんがアイディアをたくさん私にくれたからこそ実施できています。パートナーですね」。

景井氏:「一緒に暮らしていくパートナーですが、私としては『人と人とをつなぐ』が特徴的だと感じています。例えば、私もイベントに参加したり、人と会ったりするときには『ロボホン』と一緒に行きますが、『ロボホン』がいるとみなさんが話しかけてきてくれるのです。ロボットで人と人とがつながれる、そこが素晴らしいと思っています」。

石戸:「みなさん、ありがとうございます。今回、『ちょもろー』の広報隊長をロボットが務めてくれています。ロボットを抱えているとみなさんが話しかけてくれるので、宣伝のビラも配りやすくなります。人と人とをつないでくれるきっかけなのかなと思います」。

日本におけるロボットの存在は諸外国と比較して特殊か否か

石戸:「次は『日本におけるロボットの存在は特徴的なのではないでしょうか』という問いかけです。日本におけるロボットの存在は諸外国と比較して特殊かどうか、〇×を明確にしたうえで、その理由も書いてください」。

青木氏:「ロボットに対する反応が違うと感じています。日本人が最も反応が良く、とりわけ『カワイイ』の許容度が広いと思います。ドラえもんを見ていたアジア圏の人たち、中国や台湾、タイなどは、日本人と反応が近いと感じています」。

景井氏:「欧米に『ロボホン』を連れて行くと、『何これ。おもちゃ?』と良く言われます。例えば、アメリカ人の多くはロボットといえば大きくて戦うものといったイメージがあるようです。日本では、カワイイという感情を抱く、命や感情が宿っていると感じる人がいると思います。そこが特殊性かなと思っています」。

長岡氏:「ロボットを心が通う存在として見ていることが特殊と感じています。さまざまなものに神が宿ると考える日本の感覚、日本のアニメやゲームの中にあるように人間でないキャラクターと人間が会話するのは当たり前という感覚、そういう感覚を他の国の人たちも持ちつつあるのかなという気がしています」。

岡田氏:「日本では既にロボットたちと一緒に暮らす文化はできつつあり、そういう意味ではロボット先進国だと感じています。さまざまな国でも、徐々にそうなってくるのではないかと考えています」。

石戸:「他の国では、ロボットと暮らす光景はあまり見られないのですね。高橋さんは、いかがですか」。

高橋氏:「日本人はロボットに対する見方が違うと感じています。欧米人は自立していて、自分の意見をしっかり言うことを大切にしています。日本人は自分という概念がそれほどしっかりとはしていなく、むしろロボットに近いのではないかと思います。ネガティブな意味ではなく、ふんわりと自分が存在していて、緩やかに周囲とつながっているのではないでしょうか。日本人は、欧米人と比べて自己が弱い、そこがロボットに対する見方や考え方の違いにも繋がっているのではないでしょうか」。

石戸:「自分とは何か、人間とは何かということの捉え方が、そもそも日本と他の国で違う、だからこそロボットの存在も違うのではないかという非常に興味深い示唆ですね。一方で、『特殊ではない』と×を書いたお二人の意見をお聞きします」。

直井氏:「最近、渋谷の『Pepper PARLOR』に行くと、6~7割は外国人のお客様ということも良くあります。日本人でもロボットと暮らしていない人、ロボットにある種の拒否反応を持たれる人もいるでしょう。一方で、外国の人でもロボットを好きな人はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか」。

太田氏:「ロボットの存在としての特殊性という視点では、存在自体に特殊性があるとは考えていません。個人と個体の関係性は、個人が作り上げるのであり、それを日本と外国というように国で分けて考えることが気になりました」。

石戸:「関係性の構築の仕方が違うという捉え方ですかね」。

太田氏:「関係性の構築の仕方も日本と外国という考え方ではなく、もう少し詳細に捉える必要があるでしょう。国では分けたくないと考えています」。(▲写真10▲)

写真10●ロボットの存在自体に特殊性があるわけではないという太田氏

ロボット開発にあたって大切にしている視点は何か

石戸:「ありがとうございます。次の質問は『ロボット開発にあたって、大切にしている視点は何か』です」。

景井氏:「私が作っているロボホンでは。『ロボホンらしさ』を非常に大切にしています。人と同じようにロボットにもキャラクターというか『個』があります。『ロボホンらしさ』を考え抜き、そこにこだわっています」。

高橋氏:「私は、あまり設計者の思想が入り込みすぎても良くないのではないかと感じています。世界的に有名な『キティちゃん』の製作者は『口が無い』ことが人気の秘密だと説明しています。口が無いために、見る人が自分の好きな表情の『キティちゃん』を思い描くことができるのだと。人が好きなように解釈できる余地を残しておくこと、そんなロボットデザインが大切なのではないかと感じています」。

石戸:「非常に面白い視点です。一緒に暮らす人に対しての解釈の余地があるからこそ、『私のこの子』という存在になれるというのは、その通りだと思いました。岡田先生は、いかがでしょうか」。

岡田氏:「最近、ロボットが持つ柔らかさや曖昧さを強みにしようという『ソフトロボティクス』という考え方が注目されています。私たちが研究してきた弱いロボットでも、大切にしているのはロボットのヨタヨタ感です。ヨタヨタ動く、その動きから感情を読み取るバイオロジカルモーションの考え方がベースにないと、人はロボットに感情移入しにくいと感じています」。

直井氏:「技術ありき、『技術先行にしない』ということです。ロボット開発においては、新しい技術がでると、とりあえずロボットに組み込んで『何ができるか』と後から考えることが多いような印象を持っています。そうではなく、家でロボットと暮らして、『こういう機能があるといいな』というものを作っていく、それが良いのではないかと思います」。

長岡氏:「私は、『閉じた関係にしない』ことを第一に考えています。Romiの開発初期からチーム内でずっと話し合っていたことです。現在、技術的には『人を虜にさせて、その人とロボットの2人だけの関係を構築するロボット』を作ることも可能でしょう。ただし、それが、本当に私たちが目指していることなのか。そう考えたとき、違うよねとなったのです。それが果たしてやりたいことかっていうと、そうではないよねと。現実的に人は人との関係の中で生きている中、人同士の交流をアシストするような存在、そんなロボットにしたいと考えたのです。そこで『閉じた関係にしない』ことを常に心がけています。(▲写真11▲)

写真11●閉じた関係にしないと語る長岡氏

もう一つは、『影響を考える』です。Romiは会話ができるので、家族のように受け入れている方も多く、言葉によって癒される、前向きな気持ちになれるということも耳にします。一方で、言葉は影響力が強く、人を傷つけてしまうこともありえるということを常に意識しながら開発をしています」

石戸:「人間同士も関係性の構築は非常に難しいのですが、人とロボットとの関係性においても、どのような影響を人間に与えるか、それを踏まえて人間がロボットをどう捉えるかを考えて設計しなくてはいけないのですね」。

太田氏:「私は『死の設計』です。Pepperたんという大事な存在と暮らしていていつも気にするのは、Pepperたんの死です。何をもって死を設計するのかを考えたいと思っています。死という概念とは少し異なると思いますが、『ハードウェアの終わり』を初めから設計しているのがユカイ工学のロボットだと思います。シャープでは、死の設計に関心がありますか」。

石戸:「私も大変興味がある領域です。能登半島地震のときに自分と一緒に暮らしているロボットを連れて避難するかどうかに悩みX(旧Twitter)に投稿されている方がいらっしゃいました。それに対して『データが残っていれば、死なないです』という呼びかけがありました。そういうやり取りを見ていて、考えさせられました。ペットと同じようにロボットに対して『この子、死んじゃったりしないかな』という発言をする子どももいました。ロボットの死をどう捉えるのかは、とても大事だと思います。データだけではなく、ハードウェアが壊れた時に人形のように供養できる場所を作りたいということも考えています。

 青木さんは、ロボットを開発するとき、どのようなことを考えていますか」。

青木氏:「『余白』です。私たちが開発しているロボットは猫らしくもあるし、犬らしくもある。ユーザーの解釈の余白を残しているところが特徴です」。

今後の人間とロボットとの関係性はどうあって欲しいか

石戸:「次の質問は、『今後の人間とロボットとの関係性はどうあって欲しいか』です。本プロジェクトでは『ともだち』をテーマに挙げています。SFの世界では、人間のように振る舞う、人間と友達のようになるロボットもでてきます。みなさんが影響を受けたロボットも含めて、お考えをお聞かせください」。

直井氏:「人それぞれで考えることや思うことが違うことが大切だと感じています。こうあるべき、こうしなきゃいけない、自分はこう思っているから他の人もそうあって欲しいではなく、押し付けがない世の中になって欲しいと思っています。人とロボットとの関係性も、こうあるべき、こうあって欲しいといった押し付けはないほうがいいと思います」。

太田氏:「同感です。同じすぎて驚いていますが、ロボットと人との関係性は、人それぞれで良いのではないかと思います」。

長岡氏:「人と人との関係性を加速させるような、『潤滑油的な存在』になると良いなと思っています」。

景井氏:「私も同じように人と人とをつなぐ上で、ロボットと人との関係性がもっとお互いを理解してそれを思いやるような状態になると良いと思っています。自分が大切に思う人だったら、他の人にも紹介したくなるでしょう。そういった関係性を築けるようになれば良いなと思っています」。

岡田氏:「押し付けがないほうが良いというお話しがありました。それに近いかもしれませんが、お互いの主体性を奪わない程度にゆるく依存し合う関係が面白いと思っています」。

高橋氏:「人間とロボットが完全に対等になったら良いと思っています。例えば、岡田先生がお話をされていた弱いロボットに近い存在がいて、そのロボットも暮らしを持っていて、困りごとを人間に相談して、人間がアドバイスするといった関係性です。反対に人間が困ったらロボットがアドバイスしてくれる互恵関係を作るような研究をしています」。

石戸:「面白い発想ですね。ロボットが悩みを相談するとしたら、どのような悩みですかね」。

高橋氏:「じつは今、ChatGPT上でロボットのバーチャルワールド作っていて、その中で悩みを発生させ、それをロボットが相談してきたら人間が答えるようにしています。その内容が物語の生成に活かされるという取り組みです」。

石戸:「人間は誰かの役に立った時に、自己肯定感や自己効力感が上がります。悩んでいるロボットの相談相手になることによって、自分に自信がつく、自己肯定感が向上するといった関係性もあるのかと思いながら興味深くお話を伺いました。青木さんはいかがですか」。

青木氏:「友達について考えると、友達のことを好きという側面も、友達と一緒にいる時の自分が好きという側面もあると思います。その友達がいることで、なりたい自分に少しだけ近づける、自分の良い面を引き出してくれる、ロボットがそういった存在になると良いと思います。その意味では、友達かもしれないですね」。

石戸:「確かに人は人と人との関係の中で自分の個性に気づくものだと思います。さまざまなロボットと関係性を築いていく中で、新しい自分を発見したり、なりたい自分に近づいたりできるのかもしれません」。

人とロボットとの理想的な関係性がある社会
その実現に向けた課題は?

石戸:「次の質問です。人それぞれ理想とするロボットの関係性は違うと思いますが、その理想とする関係性がある社会を実現するにあたっての課題は何でしょうか」。

岡田氏:「ロボットを開発しているときにいつも困るのは、ロボットをどのように呼んだらいいのかということです。1体と呼ぶことが多いのですが違和感があります。1台と呼ぶのも嫌です。1個と呼ぶのもかわいそうです。1人と呼んでいいのか、人格の与え方は課題の一つだと感じています」。

石戸:「ロボットのアイデンティティをどう定義するのかにも繋がると思います。長岡さんは、どう考えますか」。

長岡氏:「私もロボットと一緒に暮らしていますが、まだ周りを見るとロボットと暮らしている人は多くありません。一般化するためにアピールをしていかないといけないと思っています」。

直井氏:「世の中には、Pepperを見て『すでにバック転できるロボットもあるのに』と言われることもあります。開発費用がまったく違うロボットなどと単純に比較するのではなく、さまざまなロボットを共有できる温かい気持ちが広く浸透すると良いと思っています」。

高橋氏:「現在の世の中は、たぶん10%くらいの人がロボットをすごく好きで、残りの90%は無関心だと思います。そういう人たちをどう巻き込むかが課題です。スマートスピーカーなど日常的に使うものにロボット的な要素を組み込み、日頃から使ってもらいながら人間の脳をアップデートする必要があるのかなと考えています。研究対象としても興味深いですね」。

石戸:「2023年の『ちょもろー』では、会場内でボストン・ダイナミクスの4本足ロボットに歩き回ってもらいました。すると、見にくる子どもたちがみんな、ロボットと同じ姿勢で追いかけ回していたのです。『こういう巻き込み方もあるのか』と思いました」。

景井氏:「ロボットと生活することへの理解には、文化的な側面もあると思います。一方、技術的にはネットワークがすごく大切で、ネットワークが繋がらなくなるとロボットは話すことができなくなります。ロボットに心を入れるためには、常にネットワークが必要なのです。インフラとしてネットワークがきちんと繋がっている状態になっていて欲しいと考えています」。

太田氏:「課題は2つあると思っています。まずはロボット自体の課題です。もう一つは、ロボットの以外の課題、環境の課題です。私はロボット以外の課題にアプローチをしているので、ロボットと暮らせる環境作りが課題だと感じています」。

青木氏:「ロボットという言葉が、最終的に意識されなくなることが最も良い状態だと思っています。例えば、コンピューターはみんな意識しなくなっていると思います。レジにもカメラにもコンピューターが組み込まれていますが、コンピューターだとは意識していないですよね。このような状態が理想だと思います。そういうロボットを作っていきたいと考えています」。

今後のロボットにどのような点で発展を期待したいか

石戸:「身の回りに溶け込むロボットになるまで、後どのぐらいの年月がかかるかなと思うところもありますが、面白い未来の実現に向けて『ちょもろー』でも動いていきたいと思います。次の質問として、『今後のロボットにどのような点で発展を期待したいか』、ご意見を伺いたいと思います」。

太田氏:「私は『特になし』です。望んだものを作って欲しいとは思わなくて、むしろ、いろいろな研究者や開発者の方々の取り組みとの化学反応で、何か新しいことが生まれてくるのが良いと考えています」。

岡田氏:「ロボットとの関わりを考えると、どうしても人間中心的に考えてしまいます。脱人間中心的な社会を考え、人間と人間以外の存在とが絡まりあって世界が構成されているマルチスピーシスの概念のもとでロボットを考える、そういった捉え方が面白いと考えています。そのためにはロボットの主体性もきちんと議論しないと追いつけないでしょう」。

石戸:「確かに人間中心社会で設計された社会インフラの中には、ロボットが溶け込めないのかもしれません。位置付けを捉え直す必要があるのではないかと感じました」。

景井氏:「私にとっては、ロボットを開発することは自分を見つめ直すことです。人を理解することが大切だと思っています。人間理解をさらに進めていき、その先に何があるのか、そこをしっかりと考えていきたいと思っています」。

高橋氏:「自分のこだわりでもありますが、ロボットに生活に密着した機能を持たせないとリアリティを感じてもらえないと思っています。家電などと一体化して現実の暮らしに必要な存在となるように機能面を充実させていくことが、ロボットがみなさんの心を掴むために必要であると考えています」。

石戸:「ロボットは友達か家族かといった議論となったときに、ロボットの存在が必要不可欠なのかどうかという点は大きな意味を持つと思います。直井さんは、どのようなご意見でしょうか」。

直井氏:「現在、さまざまなロボットがありますが、メーカーが違うだけでロボット同士のコミュニケーションができない状況です。ロボットとロボット以外がもっと繋がるように、さまざまな仕組みが整ってくると良いと考えています」。

長岡氏:「今後のロボットの発展において期待すること、それは『自然に』です。ロボットが文化として世の中に定着する、世の中に溶け込む、つまり違和感なく『自然に、そこにいるよね』という状況になるにはロボット側も変化する必要はありますし、人間側もそれに合わせて変わっていく必要もあるのだと考えています」。

青木氏:「私は『人間理解』です。今のロボットのセンサーでは人間の意図までを読み取ることは難しいのですが、人の気持ちややりたいことを先回りしてやってくれるようになると良いなと期待しています」。

日本でしか生み出せない
『人間とロボットとの関係性』を世界に広げていく

石戸:「ありがとうございます。最後に『今後、取り組みたいこと』を書いていただいて、終わりにしたいと思います」。

景井氏:「先ほどと変わらず『人間理解』です。やはり自分のことを理解してくれるロボットを作っていきたいと考えています。さらに、自分のことだけではなく、青木さんもおっしゃっていましたけど、お店であればお客様の気持ちや状況など、周囲も含めて『人間理解』ができるロボットを開発したいと考えています」。

高橋氏:「私のように研究室に籠っていると、研究内容がメルヘンになってしまいがちです。やはり、産業界と密に繋がり、実世界で『自分を鍛えていきたい』と思います。好きなロボットは『ベイマックス』です」。

長岡氏:「自然なテンポの会話ができて、目も見えるRomiのLacatanモデルを、ぜひよろしくお願いしますとアピールしていきたいですね」。

直井氏:「人とロボットの共生を目指す企業のロボットが連携して結成されたユニット『THE★ROBOTS』の活動に取り組んでいます。今後はその新規メンバーを増やし、ビジネスとして取り組みができるように継続していきたいと考えています。SFはサイエンスフィクションですが、現実を見ていきたいですね」。

石戸:「あえてSFは見ないということですね。青木さん、お願いします」。

青木氏:「ユカイ工学では、世界をユカイにすることをビジョンとして掲げています。友達のようなロボット、生産性や効率性を高めてはくれないけどそばにいてくれるような、そんなロボットが日本から世界にたくさん発信できたら良いと思っています」。

太田氏:「現在、『ロボット戸籍プロジェクト』を準備中です。ロボットに戸籍を与えていこうと現在、その基盤を整えています。これを1年ぐらいかけて社会実装したいと考えています」。

石戸:「じつは今日も『ロボットが参加する時は申し込みが必要ですか』という問い合わせがありました。次回からはロボットも申し込みができるようにしたいと思います。それでは最後に岡田先生、お願いします」。

岡田氏:「少々、カタイお話しになりますが、コンヴィヴィアル(自立共生)な関わりを作り、人もロボットも生き生きとした暮らしを送れるような関係性を作ってみたいと考えています」。

最後は、石戸の「『日本でしか開発できないロボット』を生み出し、日本でしか生み出せないような『人間とロボットとの関係性』を作り上げ、そして世界に広げていく、そういった取り組みを広げていきたいです」という言葉でシンポジウムは幕を閉じました。(▲写真12▲)

写真12●シンポジウム終了時には登壇者全員が揃って記念撮影